021 報恩講について

諏訪 高典

今年も報恩講の季節がやってきました。真宗門徒にとって最も大切で、最も大きな行事であります報恩講は、宗祖親鸞聖人のご恩に報いる仏事です。

聖人が亡くなられたのは弘長二(一二六二)年十一月二十八日、新暦では一月十六日。それ以来、親鸞聖人を偲び、毎月二十八日にお念仏の集まりがもたれました。講会として形式を整えられたのは聖人の曾孫にあたります覚如上人であります。覚如上人は親鸞聖人滅後の三十三回忌に『報恩講私記』をお作りになり、これに基づいて法要形式を定められました。今から七百年以上前のことであります。この『報恩講私記』が親鸞聖人のご命日に読まれるようになり「報恩講」と呼ばれるようになったとされています。

「報恩」という言葉はもともと中国で出来た言葉でその意味は「恵みに報いる」ということであります。特に中国では子どもを育ててくれた両親に対する報恩が強調されています。日本でも道元禅師や日蓮上人などは父母の恩を強調されました。

親の恩が尊いことは勿論ですが、親鸞聖人は仏恩と師恩を強調されたのであります。仏恩とは念仏一つで救ってくださる阿弥陀仏への恩。師恩とは親鸞聖人の師であった法然上人への恩であります。実際、聖人は法然上人滅後、報恩のお念仏、すなわち報恩講を営んでいたとされています。報恩の報は「むくいる」という意味、恩とは「なされたことを知る」です。講は「集まり、集い」ということです。したがって報恩講とは親鸞聖人のご恩に報い、一つの場所に話す人、聞く人が集い、そのご恩を明らかにするということになります。

真宗各本山で行われる報恩講を「御正忌報恩講」と呼びます。御正忌とは祥月命日のことで、大谷派は昔通り十一月二十一日から二十八日まで御正忌報恩講が勤まります。本願寺派、高田派などは新暦に改めて、一月九日から勤まります。「仏恩を知り、仏恩に報いる生き方ができる人間になろう。それが幸せな人生を生きる道である」と説かれました。

真宗門徒にとって最大最高の恩人は親鸞聖人に外なりません。往生浄土への道をお説きになられた聖人のご恩に報いるためにも、本山だけでなく、各寺院にもお参りし、さらに各家庭においても報恩講をお勤めさせて頂かねばなりません。それが真宗門徒にとって大切なことであり「報恩講」は個人の信仰から地域社会への固い絆へと浸透していくのであります。

(二〇一八年十一月下旬 桑名組・了嚴寺住職)