入野 由美
冷え込みが厳しく氷が張る冬は身にこたえます。しかし春になり、その厚い氷が水になると、田畑を肥えた土にしてくれる。昔から言われていることです。
こおりおおきにみずおおし
さわりおおきに徳おおし
(『真宗聖典』四九三頁)
親鸞聖人がのこされた言葉ですが、還暦を迎え私のこれまでを振り返ると、本当にその通りだと思わずにいられません。
母や、主人の父母の死病に寄り添い、苦しんでいる姿に何もできない自分や周りの人にいら立ち、眠れない日々を数年過ごしました。
姑を見送った一年後に、自分にも癌が見つかり、肺を一部切除する手術を受けました。
集中治療室から一般病棟に代わってからの日々は、今でも鮮明に覚えています。初めて経験する身の置きどころのない痛み、高熱、胸の水を抜く時の激痛、息をするのが苦しく痛みで眠れないまま、まっ暗な闇の中で、看病していた家族のことが頭によぎりました。こんなにも苦しく不安な中で過ごしていたのか。心細くつらかっただろうな。気遣ってあげられず申し訳なかったなと。本当に身を持ってやっと知り得たことでした。
私の病は八年が経過し、検査は続いていますが、家事仕事ができるまでに回復しました。腰や膝が痛んだり、物事が思うようにいかなかったりすることもありますが、以前より気に病むことが少なくなったように思います。
入院中、家族の支えや看護婦さんの優しさを有難く嬉しくおもいました。退院してからも、心配しながらお世話して下さる周りの方々に、勇気づけられる日々でした。家族の看病に明け暮れ、自分までも大病をした「さわり多き」日々を経験したことは大切なことでした。人の温かみ優しさに感謝し、当たり前の暮らしの貴さを思い、他の人の痛みや苦しみを感じるようになりました。
これからの人生も何があるか分かりませんが、毎日毎日を感謝しつつ過ごしていきたいと思っています。
(二〇一八年十月下旬 員弁組・了雲寺坊守)