右から? 左から?
岡本寛之
まことに私事ですが、小学二年生になる長男が入学と同時に剣道を始めました。
始めた理由は本人いわく「保育園のお友達が習っていたから」とのことですが、私が思うに幼少時に映画村で目にしたお侍さんの殺陣がきっかけだったと思われます。
もう二年ほど続けておりますが、最近になって、ようやくチャンバラの域を脱してきました。また、剣道をはじめ武道は、「礼にはじまり礼におわる」といわれており「少しでも礼儀作法を身に付けてくれれば…」という親の身勝手な願いはどこへやら、そちらの方はなかなか成果が表れてくれないのが現状です。
私自身も中学高校と剣道部に所属しておりましたので、今では時々親子揃ってお世話になっております。
毎回、稽古の始まりと終わりには礼式が行われます。
先生と子供たちが向き合って座り、姿勢を正して目を閉じて黙想、続いてお互いに礼をし、道場の正面にある神棚に一礼。稽古終わりの際には、そのあと先生が稽古の総評など色々なお話をして下さいます。
先日は剣道の所作についてのお話しでした。要約しますと
「着座の際には先に左膝を着き、あとから右膝を下ろす。座礼の際も先に左手を着き、あとから右手を着く。歩を進める際は右足から歩み出す」など、剣道における所作は右側が主となる様です。
剣道の起源は江戸時代の後期、剣術の鍛錬が始まりで、着座や座礼で右側を残すのは何時でも刀に手が伸ばせる様に、言い換えれば何時如何なる時も油断をしないという武士の心構えの名残なのだそうです。
因みに正面への座礼の際は、神を斬りつけることは有り得ないので両手を同時に出すそうです。
経験者なのに知らないお話で、大変興味深くお聞きしておりましたが、家に帰り子供と一緒に復習しながら少々戸惑いを感じたのを記憶しております。既にお気付きの方も居られるかと思いますが、私たちが普段しております所作とは全くの正反対だったからです。
私たち大谷派の儀式作法の中に「左(さ)進(しん)右(う)退(たい)」という言葉があります。
内陣や外陣での出仕や退出の時、前進時は左足から歩み出し、後退時は右足から退きます。着座の際は先に右膝を着きあとから左膝を下ろし、基座の際は先に右膝を立てて立ち上がります。
足裁きだけではなく、御経や御文などを手に取る際も先ず左手で取りそのあとに右手を添え、納めたあとには右手から離しそのあとに左手を戻す。など読んで字の如く左から進み右から退くという意味です。
左進右退の起源は諸説あり、同じ仏教でも各宗派によって作法は違ってきます。宗教上の作法においては大半の宗派が右と左でどちら側が上の位にあるかということに起因しているようです。
武道と宗教、また各宗派によって諸作法の違いはありますが、何よりも大切なのは古来より脈々と受け継がれてきている伝統を守り続け、次の世代に受け継いでいくことなのではないでしょうか。
今から何年か後、長男が大谷派の儀式作法を学んだ時、私と同じ様に混乱する姿が目に浮かびます。
(二〇一五年三月下旬 長島組・源盛寺住職)