026転悪成善

芳岡恵基

以前、NHKのテレビ番組『プロジェクトX』の中で放送された「ツッパリ生徒と泣き虫先生~伏見工業ラグビー部・日本一への挑戦」を観た時に、たいへん心を打たれました。主人公の先生は、元ラグビー日本代表の山口良治さんでありまして、教師としてはじめて伏見工業に赴任されたところから番組が始まるのですが、当時の伏見工業とは「日本一の荒れた学校」と呼ばれるぐらい事件や事故が絶えることはありませんでした。そんな中、ラグビー部の監督として生徒たちと向かい合うわけですが、当然部員たちからは猛反発を受け、まともな練習ができない状態で一年が過ぎる中で、初の公式戦である春の京都府大会を迎えることになりました。初戦の相手は、名門花園高校であり、日本中にその名が知られた強豪チームで、当然のように、一方的な試合内容になり、後半15分には、80対0とワンサイドゲームになってしまいました。

その時に山口先生の身体の奥から、堪えきれないものがこみ上げ、大粒の涙がこぼれ落ち、「この子どもたちは、今どんな気持ちなんだろう。めちゃくちゃにやられて悔しいやろな、歯がゆいやろなと思った時、俺は今まで生徒たちに何をしてやったんやと、初めて自分に目が向きました。そして、俺は元日本代表だ、監督だ、教師だと思い上がっていた自分に気づき、本当にすまんと思って、あの涙の中で生徒たちに謝っていたんです」と言われました。

私はこの言葉を聞いた時、山口先生がまるでお念仏されているかのような尊いお姿に出会わせていただいた思いでありました。山口先生はその後、生徒と心が通じ合い、ラグビー部は一年後には京都を代表するまでに育っていったようであります。