安田豊
「明けましておめでとうございます」
年の初めに、ご門徒さん宅へお勤めに行くと必ず交わされる言葉です。しかし、先日聞いたことのない言葉で私を迎えてくれたお宅がありました。「ご院さん、明けましてありがとうですよ」93歳で一人暮らしのおばあさんの言葉です。その挨拶に「あれっ?」と思いましたが、おばあさんは「この歳にもなると、新年を迎えられたことが、たいへんありがたいです」と続けられました。その言葉に漠然と「本当や、ありがたいね」と答えては見たものの、実は私にはおばあさんが感じている実感はありませんでした。
その言葉を聞いて、この新年をさも当然のように迎えた私と、「ありがたい」と迎えられたおばあさん。「今」の受け止め方が違うと感じた瞬間でした。そして同時にはっきりと分かったことは、おばあさんの方が私よりも「今」に感動して生きているということです。
「もったいない、ありがとうございます」そんな気持ちが伝わってくるその一言に、私は「お念仏」の響きを感じずにはいられませんでした。思うに恥ずかしながら私の1年は、その言葉で始まった気がします。新年早々、記憶に残る良い言葉に出合ったものです。