松井 茂樹
私のお寺の庭先に樹齢約四〇〇年程の五色椿という一本の木で五つの色の花を咲かせる非常に珍しい椿の木があります。ここ数年は毎年新聞やTV等で紹介され、今年は開花している時期にのべ一六〇〇人程の見物客の方がいらっしゃいました。この椿の木はお寺が開山された頃に植樹されたと思われる樹木ですが、大変珍しいという事が判明したのはこの数年前の事で、それまでは変わった椿である事は知っていたのですが、皆が見に来る程珍しい樹木である事には気づきませんでした。
私も幼少の頃よりその椿の木は毎日見ていましたが、その木が珍しい樹木である事も知らず、庭を整地する機会があれば切り倒して駐車場等にすれば良いのではないかと考えていました。ところが、珍しい樹木である事が判ると急に大切な木となり、枯れたら困るとか、この木がお寺の活性化の材料になれば良いなと考えるようになりました。
私の思い以上に今ではこの五色椿の見物に来られる方々も増え、お寺の活性化としては非常に有難く、椿の咲く時期を心待ちにされる方々が多くいらっしゃる事がとても有難い事と思うのですが、その一方でもしこの椿が珍しい樹木である事が分らなかったら、きっと普通の境内の中の樹木の一本としか考えず、ともすれば伐採していたかもしれません。
私達は常日頃、「大切なもの」に囲まれて生活しています。それは人であったり物であったりお金であったりと人それぞれですが、「大切なもの」を本当に「大切なもの」として認識し、心配りをされる方は少ないと思います。むしろ、身の回りにある「大切なもの」を「当たり前のもの」と認識されている方が私を含めほとんどではないでしょうか。
この自分のことばかり考える私たちはまさに「煩悩具足の凡夫」であります。この「煩悩具足の凡夫」である事に気づき、毎日が「大切なもの」に囲まれて生活している事に、感謝する心を忘れずに生活していきたいと思います。
(二〇一八年五月下旬 中勢2組・淨得寺住職)