岩田信行
福井市の三門徒派本山で「聞法を行動に」という法語に出遇いました。以来、「聞法を行動に」の、その一言が私に聞法の「証」を問い続けてきます。
ところで、品(しな)川(がわ)正(まさ)治(じ)さんをご存知でしょうか。「経済同友会」の終身幹事で、一昨年亡くなられました。八九歳でした。
品川さんは財界人でありながら、憲法9条改変の政財界の動きに真っ向から異議を唱え続けた方です。
爆弾の破片が体に埋まったまま、とにかく生き延びて終戦を迎えます。引揚船の中で戦争放棄の平和憲法が制定されたことを新聞で知ります。乗合せた戦友たちと咽び泣いたそうです。平和・人権、そして何よりも憲法9条の大切さを熱く語られる方でした。
国際開発センター会長でもあった品川さんは、世界の紛争国・貧困地域を歩き、世界中に民族や宗教の違いなどで紛争の種が尽きないことを目の当たりにして、紛争を戦争にさせない究極の手立てとして「憲法9条」の大切さをいよいよ実感します。そして、政財界の憲法改変の動きに抗して「たとえどんなにボロボロになっても憲法9条の旗を手放してはいけない」と訴えていかれました。
品川さんが語った「憲法9条の旗」。それは言葉の文(あや)、譬喩的・象徴的に語られたのだと私は単純に受けとめていました。
二年前、本山の報恩講の折、御影堂門前で「真宗大谷派9条の会」の方々とその日のビラ配りの終りがけ、京都のご門徒、南(みなみ)斎(とき)子(こ)さんが「佛旗の五色の色にはこんな意味があるって知っておみえでしたか?」と言って、手書きのメモをビラ配りの面々に配って「ごきげんよう」と去っていかれました。
品のいいおばあさまの南さんのその去り際にあっけにとられましたが、手渡された五色の色鮮やかな佛旗の絵にハッとしました。「あっ、これが『憲法9条の旗』だ」。仏教徒の旗印の「佛旗」こそ、品川さんが象徴的に言われた「憲法9条の旗」だと直感しました。
すべてのものは暴力に脅えている。すべてのものは死を恐れる。我が身に引き当てて、殺してはいけない。殺させてはならない。(129)」
すべてのものは暴力に脅えている。すべてのものにとって、いのちは愛しい。我が身に引き当てて、殺してはならない。殺させてはならない(130)」。
釈尊の『ダンマ・パダ(真理の言葉)』です。お釈迦さまの教えを依り所として生きる仏教徒の旗印である「佛旗」こそ「憲法9条の旗」そのものです。
自坊の同朋の会・「しんらん塾」の面々と、「聞法を行動に」の命題に応答して、今、「旗日には佛旗を掲げよう」を合言葉に憲法と仏法を学び合っています。
想像してみてください。国民の祝日にはどの家(うち)にも佛旗がはためいている光景を。あなたの家にも、かつて日の丸を掲げた金具が残っていませんか。今、仏教徒の証、真宗門徒の証が問われています。今、できることをする。誰でもできることのひとつ。仏壇屋さんで「佛旗をください」と相談してみてください。「この国のあり様に危惧する心ある仏教徒よ、旗日には佛旗を掲げよう。そして、声を上げましょう」。
「社会」は「外なる自己」、「自己」は「内なる社会」です。社会に起こる様々な人為の問題は信心の課題です。そして「聞法を行動に」の一言は、私に常に聞いたことの証を問いかけてきます。
(二〇一五年四月上半期 南勢二組 道專寺住職)