山口 晃生
三重教区が掲げる御遠忌スローガンは「共に、大地に立たん」であるが、私自身本当に自分の足で大地に立っていると言えるのであろうか。過去にこんな出来事があった。
二五年も前になるが、体調不良が続く母を一度詳しく診てもらったらと私立病院へ連れて行った。検査の結果、「肝臓ガン」の末期で余命一ヵ月との診断。それを聞いた時は頭が真っ白。「これは夢だ。そんなはずがない。今まで病気と縁もなく毎日畑仕事をしていたのに突然あと一ヶ月と言われても信じられない。間違いと違うか。否、最新医療での診断や間違うはずがない。でも誤診であってほしい」と、寝ても覚めてもそんなことが頭から離れず、仕事も手に付かない。
そんな時決まって友人・知人から「あの神社に参ったら病気が治った」とか言われると、目に見えない何かがあるはず、奇跡が起こるかもしれないと、言われるままにお参りもした。
そんなどうにもならない事を自分で何とかしようと、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、全く地に足が付かず、浮草のような日々が続いた。
しかし、そんな事で末期ガンが治る筈もなく、約二ヵ月後、「ありがとう」の言葉を息子の私にではなく妻に言い残し、お浄土へ還って行った。
愛する人と別れる悲しみの度合いは、その人から受けていた愛の大きさに比例すると言うが、母との別れは私の人生の中で一番辛い苦しい出来事だった。
それを知ってか知らずか、我が家は今、我々夫婦と息子夫婦、そして孫の五人で暮らしているが、何のわだかまりも無く、家族仲良く、特に嫁姑が仲良く暮らしているのは、母の最期の言葉「ありがとう」が今も生きているのか、母の死をご縁として受けた「特伝」と、その後の聞法を夫婦共々続けているお陰か、少しは地に足が付いたのではと思っている。
これからも、仏法を主あるじとし、ありがとうの言葉がいつも口に出る、そんな家族であり続けたい。
(三重組・蓮行寺門徒 二〇一三年五月上旬)