036未曾有のいのち

折戸芳章

本年を振り返ると、3月11日の東日本大震災を想い出される方がほとんどだと思います。震災後9ヶ月余りが過ぎて、今なお数千人の方が行方不明のままで「いのち」の確認が取れていません。

この度の大震災を未曾有の激甚災害と言いますが、地球誕生後の何億年の歴史からみれば、このような大地震が何度も繰り返されて現在の地球があるのだと思います。それに比べて、私たち人類の歴史は浅く、3月11日の大震災を今までに一度もなかった出来事と捉えておりますが、私たちが経験していないだけで、地球規模からすれば、大自然がもたらすおよそ千年に一度の繰り返しの出来事の一つなのでしょう。しかし、大震災で犠牲になられた一人一人の尊い命は、地球誕生の何億年前から今日に至るまで、誰一人として存在することのなかった、まさに「未曽有のいのち」なのです。

宗祖親鸞聖人七百五十回御遠忌法要厳修直前の出来事で、法要が中止と変更される仲、御遠忌テーマ「今、いのちがあなたを生きている」を私に如実に知らせる出来事でした。今年11月の本山報恩講は御遠忌法要の一環として勤まり、法要は終了し、来年2月には御遠忌の総括がされますが、テーマは今後も私の課題としていかなければなりません。

池田勇諦先生が、今年度、三重真宗教学学会総会の挨拶の中で、「大震災を縁にして、御遠忌法要とは何かを問い直すべきであり、千年に一度の大震災だとすると、千年に一度の御遠忌のご縁であった」と述べられていました。50年に一度の御遠忌ですが、未曾有の御遠忌であったのだと思います。私たちは、日常生活の中の些細な一つ一つの出来事さえもが未曾有の出来事であるのに、毎日同じことの繰り返しをしていると錯覚に陥っています。
今一度、大震災と御遠忌を縁にして今年を振り返ってみることができるならば、未曾有のいのちを賜りながら、また新たな一年を迎えさせていただくのだと、この一年に感謝しながら今年を閉じることができる自分でありたいと思います。