034いのちのおもさ

藤田宣和

12月です。2010年も終わろうとしています。今年は都が奈良に置かれて、1300年。奈良ではいろいろな催し(イベント)が組まれました。このテレホン法話を聞いてくださっている方の中にも、奈良に向かわれた方々もおみえになることでしょう。

1300年前に建てられた多くの寺院が発掘され、国の遺産として再建されました。私は、奈良仏教を支えてくれた興福寺、東大寺、西大寺、鑑真和尚、聖徳太子、そして、人としての生き方を示された『華厳経』、『維摩経』等々の諸経典にも少し触れることができました。仏教の旅は、遠くインド、中国、シルクロードを経て、西安の都から、海を隔てた大和の国、日本への長い旅でした。「お経に触れて生き方を知る」の旅は、その道々に、多くの文化を形成してきました。また、奈良時代の家々の様子が、見事な映像で映し出されていました。

今年は「コップテン(生物多様性会議)」が名古屋で開催されました。変わりゆく「環境といのち」について、テレビでも多くの番組が組まれました。私の「いのち」や世界中の動植物について、「いのち」あるものとそれを繋げてきた生命の糸について、人の遺伝子(DNA)を構成する32億個のヒトゲノムについて、私は改めて考えさせていただきました。

そして、私の体の中にある、30数億年の「いのち」の歴史、そこに無量の「いのち」としての重さを感じ取りました。「三帰依文(さんきえもん)」の「人身(にんじん)受け難(がた)し、いますでに受く」と唱える重さを感じました。

今年はこの重き「いのち」を裁判にかけ断ち切るという、「人が人を」殺す、死刑判決を言い渡すという、裁判員制度が取り入れられ、最近、死刑判決が出されました。また反面、死刑確定の人がDNA鑑定で無罪になるということもありました。

私たち仏教徒は、第一に、「人を殺してはいけない、生きものを殺さない」とされます。この判決は30数億年の「いのち」を断ち切るという判決です。口では、「不殺生戒(ふせっしょうかい)」と言いながらどうなのでしょうか。

また、宇宙について多くの疑問が解明しつつある一年でした。137億年前に時間と空間、「時空」、「宇宙」が誕生しました。それを見極めようとする宇宙観測船「あかり」。太陽系の誕生が46億年前。そして、30数億年前の私のいのちの誕生を解き明かす「はやぶさ」の帰還。持ち帰った粒子の元素の分析作業。続いて、光の速さで走る乗り物、国産の宇宙実験船「イカロス」の発射成功。分からなかった宇宙の世界、私のいのちの誕生が、どんどん解明されていく年でもありました。お釈迦さまが解かれた「宇宙」の世界。これらの研究の成果に目を丸くして見つめられたことでしょう。

2011年、来年はいよいよ宗祖親鸞聖人七百五十回御遠忌が厳修されます。改めて、私にいただいた「信心」を確かめていく、嬉しい時です。皆さまご一緒に参詣いたしましょう。