007生まれてきた意味

川瀬智

先月、NHKの番組で「風をあつめて-難病の子を抱える家族の絆を描く-」という放送がありました。2人の筋ジストロフィーの娘との生活の中で、いつしか幼い命に自分たちが生かされていることに気づいていく夫婦の姿が映し出され、私に深い感動を与えてくれました。

この番組の原作が『雨のち曇り、そして晴れ-障害を生きる13の物語』(NHK出版)という本にあるということで、早速図書館で借りて読みました。

浦上誠27歳と浦上攝(せつ)25歳は、ごく普通の夢を胸に抱き、新しい家庭を築くべく結婚しました。そして、1年3ヶ月後、めでたく女の子が生まれ、一般となんら変わらない新家庭の楽しい毎日が始まりました。ところが、杏子(ももこ)と命名されたその子は、検査の結果、「治療法もなく、一歩も歩けず、生きても高校生くらいまで」という筋ジストロフィーと診断されるのです。

「杏子には、生まれてきた意味なんかない。体の自由はなく、言葉も話せず、寿命も短い。なぜ生まれてきたのか。親を苦しめるために生まれてきたのじゃないか」と父は思います。

そして、5年後、健康な子どもが欲しいと、2人目を出産しましたが、杏葉(あんな)と名付けられたその子も、筋ジストロフィーを持って生まれました。

「杏子も杏葉も私たちを親として選んで生まれてきたのだと思っています。もし、他の夫婦だったら殺していたかもしれないと思います。事実、私たちも何度殺したいと思ったか分かりません。今でも、一瞬首を締めたくなる時があるのです」と父が語るように、我が子の首に手をかける場面が、テレビでも描かれておりました。しかし、娘さんとの苦悩の生活を通して父親の心は変化していきます。

「今では、子どもたちが私の人生の師となっています。杏子9歳、杏葉4歳。苦労したというにはまだ短いかもしれません。これから、もっと辛いことも待っています。しかし、子どもたちは、私に素晴らしいものの見方、考え方を教えてくれました。それは『現状は自分がどう感じようと、どんなに落ち込もうと何も変わらない。しかし、お父さん、あなたがものの見方・考え方を変えれば全てが変わります』ということなのです」

さて、『仏説阿弥陀経』には、「一切諸仏諸護念経(一切の諸仏に、護念せられる経を信ずべし)」と、阿弥陀仏の尊い心が表現され、全ての私の環境、私と同じ時代を生き、生活する全ての存在は、念仏でしか救われない私を教えてくださるハタラキだと説かれております。

浦上誠さんは、病気である2人の娘さんを通して、私自身のものの見方、考え方の不純性を教えていただいたのだと思います。自分の都合に合わない子であればこそ、その事実を通し、我が子を2人の師としていただかれたのだと感じたことです。