佐々木達宣
今から40年ほど前、紅顔の美少年とは程遠いニキビ面の私は、弾けもしないのに友だちから無理やり借りたギターを手に、周囲の迷惑も顧みず、当時流行っていたフォークソングを歌い、自己満足の世界に浸っていました。
ガロ、吉田拓郎、チューリップ、岡林信康…。同じくらいの世代の人にはとても懐かしい名前だと思います。その中でも吉田拓郎さんの歌が好きでした。そんな彼の歌の中に「イメージの詩」という曲があります。デビュー曲ということで、とても古い曲なのですが、その歌詞の中にこういう一節がありました。
自然に帰れっていうことは どういうことなんだろうか 誰かが言ってたぜ 俺は人間として自然に生きているんだと 自然に生きてるってわかるなんて なんて不自然なんだろう…
難解な詩で、当時中学生の私には意味など理解できるはずもなく、ただ何となくその言葉が心の中にひっかかったまま、40年の月日が流れて行きました。
最近のテレビCMで「あなたは、あなたのままでいいのだ」というフレーズを耳にします。これは故赤塚不二夫さんのアニメ「天才バカボン」に登場するバカボンのパパが、話の最後に必ず言う名セリフ「これでいいのだ」を引用しているのですが、「バカボン」とはインドの言葉で、世尊つまり仏さまの尊称を表しています。
私たちの生活の基盤は、名誉、貧富、健康など、世間でいうところの価値観の中に存在し、そして、その価値観が、時には他を傷つけ、自らを苦しめることとなっているのです。世尊は、そんな私たちに物差しで人の価値観を測ることの愚かさを説き、そして、常に私たちに寄り添い、人間はその存在こそが尊いと、「あなたはあなたのままでいいのだ」と教えられているのです。
さて、先程の歌の中の「自然」という言葉を「自由」という言葉に置き換えてみましょう。
自由に生きてるってわかるなんて なんて不自由なんだろう…
自由ということを、自然と捉えるのではなく、思い通りとするところに私たちの苦しみがあるのです。