折戸芳章
難題のない人生は 無難な人生
難題のある人生は 有難い人生
この言葉は、幼少時の病気がもとで聴覚に障害をもっているにもかかわらず、接客業という仕事で、筆談で会話をしながら業界№1になったある女性の言葉です。ある日、一人のお客さんが「障害をもちながらこの世界で生きてゆくって大変だし、今まで多くの難題があったでしょう」と質問したことに対して、彼女が筆談でメモ用紙に書いた言葉です。
さて、今年も数日で新しい年を迎える時期がやってきました。今年こそは自分のこと、家族のこと、社会のこと等の無事を願いつつ新年を迎えたはずなのに、大なり小なり難題のある一年間でした。
『蓮如上人(れんにょしょうにん)御一代(ごいちだい)聞書(ききがき)』の第300箇条(真宗聖典912頁)には、「南無阿弥陀仏の教えをいただく者は、どんな悲しいことに出会っても、どんな都合の悪い境遇にあっても、それは素晴しい阿弥陀如来の眼(まなこ)をいただく大事なご縁であることを忘れないように。常に阿弥陀如来の明るい眼の働きを喜ぶ人になりたいものである」と教えてくださっています。
彼女は聴覚障害という難題と真剣に向かい合っていくことが、南無阿弥陀仏に出遇う大切なご縁なのだと真に感じ、難題の無い無難な日常を送ることよりも、今生かされている自分の身の事実がどれだけ有難いことなのかということを本当に実感されているのだと思います。
誰しも毎日の日常生活が難なく無事に過ごせるようにと願って生活しています。しかし、現状は思い通りにはならず、右往左往、不平不満の毎日です。そんな日々の暮らしだからこそ有難く、南無阿弥陀仏に出遇う大事なご縁である、との教えに頷かずにはおれません。