028おもい 

渡辺美和子

今年の夏休みに、大学生の息子がバイトで手に入れたバイクで、北海道一人旅に出かけました。電話もなく心配になったのでこちらからかけてみると、元気な声で楽しく回っている様子が伝わってきました。

しばらくして、新潟のアパートに帰ったと連絡があり話を聞いてみると、帰りの秋田でスリップして転んでしまい病院で手当てして、バイクに乗って帰ってきたとのことで、ビックリしました。

北海道の後バイクで三重に帰ってきました。擦り傷だらけで「大丈夫なの」と声を掛けると「大丈夫」との返事です。内心はもうバイクに乗らないほうがと思う反面、明日から、四国に出かけるという息子が、地図で道を楽しそうに調べているのを見ると言えません。

バイクの後ろには、テント・寝袋などを積んで、キャンプ場などに泊まるそうです。

次の朝早く出かけていくのを見送りました。二日が過ぎ、夜用事ができたので、携帯電話に何度連絡しても出ません。丁度その時、テレビでは神隠しや行方不明の番組をしていて、不安は広まっていきました。翌朝もつながりません。昼過ぎにこれでだめだったら捜索願かもと思っていたら「今、松山にいるよ」と元気な声がしました。昨夜は四万十川の河原のキャンプ場でかからなかったそうです。「よかった」昨日からの心配が息子の一声で消えていきました。

このことを思い返してみると、自分の心が一人相撲をしていたことに気づかされました。自分の中でおこってきた「おもい」に自分が振り回され、息子に電話で文句を言っている自分に出会ったことでした。