檉とし子
桑名別院の報恩講の前日、準備のために境内へ入ると、軽やかなデッキブラシの音が耳に入りました。どなたかが境内のトイレを掃除している音でした。
1日目の法要を終え片づけを済ませて庫裏の玄関まで来ますと、年配の婦人の方が明日のお斎(とき)のために食器を分けている姿を見かけました。
2日目も同様、黙々と後片づけをされているなか「一度お茶でも持って行きたいけど」と思案しながら、思い切って「ご苦労様です」とお茶を持って行くと、何かスーッとその方々の輪の中に座ることができました。
皆さんの顔が生き生きとして嬉しそうでした。わずかな間でしたが、話の輪が広がり、多度の人あり、桑名、長島の人あり。大正15年生まれの方は「私はここではまだまだ新米ですよ」とおっしゃいました。
最終日にご講師が「北陸では報恩講の時は、黒の紋付羽織でお参りされている所もありましたよ」とお話されている声が襖越しに聞こえてきました。そのことは、台所を手伝っている女性たちの真新しい白い割烹着がそのことを物語っているように思えました。
この度、別院の報恩講にお参りさせていただき、花方さん、お斎の方、泊まり込みのおばさん、雪かきをしてくださった人、トイレの掃除をしてくださった人、まだまだ私の知らない方々に出遇ったおかげで、親鸞聖人の教えを大切にしている方から「真面目に日暮らしをしなさいよ」と言われている様な気がしました。
報恩講は報恩感謝と言われますが、裏方さんの「今自分にできる仕事はこれだ」と黙々と働いておられる姿に遇い、寺に住んでいる私に、襟を正して仏事に接することを教えていただきました。