024いのちを感じる

松下至道

終戦記念日の夕方、墓参りに行った時に見た光景です。家族連れで来られていたんですが、ヤブ蚊が多くて蚊をたたく音が聞こえてきました。家族連れに、まだ30才前後の若いお母さんと、4、5才の男の子がいたんですが、その子が持ってきていた殺虫剤を、蚊のいそうな所に吹きかけ始めたんです。近くにいたおばあさんらしい人が、その子に対して、「あっちにも吹きかけな、こっちにも吹きかけな」と言って、蚊のいそうな所を指して、殺虫剤を吹きかけるのを勧めていたんです。すると、男の子の横にいた若いお母さんが、男の子を捕まえて優しく叱ったんです。「刺されてたたくのなら、まだ仕方がないけど、刺していない蚊まで殺すのはやめなさい。蚊にもいのちがあるのよ。まだ生きているんだから」

私は隣のお墓で、そのお母さんの声を聞いて、何か感動に似た思いをもちました。自分だったら、あのお母さんのように言っただろうか。ふとそう考えた時、ゴキブリやムカデなど、見た瞬間に殺そうとしている自分の姿が浮かびました。別に危害を加えられたわけでもないのに、ただ気持ち悪い、かまれたらどうしようというだけで…。

現在、イラクでは日常的にテロが起こり、毎日何十人ものいのちが奪われています。そもそもイラク戦争をアメリカが起こした理由は何だったのでしょう。「大量破壊兵器を持っているから、事前に危険を摘み取るため」でした。私には、蚊のいそうな所に殺虫剤を吹きかけていた男の子、それを勧めるおばあさんの姿がアメリカとアメリカに追随する日本の姿とだぶりました。人間は、人間相手でもそういう姿で対しているんだと。それは、私自身の姿とも重なったのです。

終戦記念日にお墓で、若いお母さんから聞いた言葉は、いのちの尊さを考えさせられる良いご縁となりました。「(われ)当(まさ)に世において無上尊(むじょうそん)となるべし」というお釈迦様のお言葉があります。このお言葉には、自分自身の命は何ものにも比べられない尊さがあるのだということを教えてくださっています。他と比べて尊いのではないのです。比べられない尊さなのです。南無阿弥陀仏というお念仏も、その何ものにも比べられないいのちの尊さにうなずいて生きて欲しいという仏様の願いのこもった言葉なのではないかと思います。