010無上尊(むじょうそん)となるべし

三浦崇

春風と共に甲子園球場から選抜高校野球の大会歌『世界に一つだけの花』のメロディが流れてきます。

小さい花や大きな花

一つとして同じものはないから

ナンバーワンにならなくてもいい

もともと特別なオンリーワン

日本ではここ5年連続して、年間の自殺者が3万人を超えていると報じられています。世界でトップの長寿大国日本は、また世界で有数の自殺大国でもあるということでしょうか。このことについて、作家の五木寛之さんは、「十数年にわたる泥沼のベトナム戦争で、アメリカが失ったアメリカ人の命は約六万人であった。日本では空襲警報もならず、爆弾も落ちず、機関銃の弾も飛んでこず、物は溢れスポーツや音楽や様々な催しが華やかに行われている中で、わずか2年間でそれ以上の一般市民の死者が出ている。平和な時代の陰で見えない戦争が続いているのではないか」と言われます。

4月1日は親鸞聖人の、そして4月8日はお釈迦様の誕生日です。お釈迦様は誕生されてすぐ七歩あゆまれて「天上天下唯我独尊」と宣言されたと伝えられています。

お釈迦様の誕生の姿を通して仏教が私たちに教えるものは、人間は生まれて歩むものであるということです。そして、その歩みは、他人と比べ競い合って、自分が少しでも優れたものをめざす、最上尊・ナンバーワンを獲得しようとする歩みではなく、他と比べる必要がない、かけがえのない、最上尊・オンリーワンの自分に目覚め、そのいのちを生きよと教えるものであります。

それは、満足を求めての歩みではなく、満足から出発する歩みであります。いのちを飾り立てる歩みではなく、生き生きといのちを輝かせて生きる歩みであります。

世界でトップの長寿国を手に入れて、延びた寿命をどう生きるのか。その道が見出せない限り、長寿国はそのまま自殺大国にならざるを得ません。

静かに、しかし深く強く「吾(われ)、当(まさ)に世において無上尊となるべし」とのお釈迦様の教えが求められていることを思わずにおれません。