安田豊
「ご院さん、大事な体だから風邪をひかないでね。代わる人がいないんだから」
冬場のお参りにお邪魔をさせていただくと気持ちのこもった暖かいこの言葉を何度となくかけていただきます。「ありがとうございます。あなたもお体を大切に。代わりはいませんよ」といつも返答をするのですが、勿体無いことに「有り難い」とは思うものの、さしてそれ以外の思いはありませんでした。
そんな日々を送る中、通りがかりの寺院の掲示板にふっと目がとまりました。
「周りの人たちの愛が私を育ててきたのだ。それを忘れてはならない」
私はこの言葉が目に飛び込んできた瞬間、あの会話が頭に浮かび、自分自身が恥ずかしく、また情けなく思えたことをよく覚えています。その時の気持ちを言葉にすると何かぎこちないのですが、私はまさにその文字によって今までの自分の姿に気づかされたのです。
皆さんから支えられ、お育てをいただいているということを忘れた生活を送る毎日。今こうして気がついてみたら、すでに住職の身だったという事実。そのお育ての上に成り立っている事実に気づかせていただいた時、今まで以上に皆さんからのお心遣いと、また同時に住職の責務を痛感せずにはおれませんでした。
本当に何気ない日常会話がきっかけでしたが、「日々このような形でお育ていただいているのだな」と気づかせていただきました。そう思う今この時もお育てをいただいている私です。