010ありがたさ

川口 昭

世の中、情報があふれて、その日のうちに世界に起こったことが伝わってくるようになりました。そのため多くのいろいろな情報が入り乱れて、心が安まることがないこの頃ですが、ここで「ありがたさ」ということを考えてみたいと思います。

私たちを取り巻くところの”物の存在”が、すべて当たり前であると思ってはいないでしょうか。そこには物のありがたさということが感じられません。それが感じられるようになるのは、大体において、その物が無くなって初めて、その物の存在のありがたさが分かるということがあるようです。水や空気や太陽のありがたさ、また大地のありがたさ、何一つとっても大切な物であり、私たちが生きていく上になくてはならないものです。

例えば大地があって、そこに山があり川が流れ、家が立ち人が住むというようなことが、不思議に思う人はあまりないと思いますが、よく考えてみますと大地は重いものでも軽いものでも、またどのような人間でも好き嫌いで乗せないということはありません。すべてのものを黙って、不平も言わず乗せているのです。それに引きかえ私たちの心はどうでしょうか。善いこと悪いこと、美しいとか醜いとか、大きいとか小さいとか、頭が良いとか悪いとか、金とか地位とかいろいろ分けているのではないでしょうか。しかもそれは、自分に都合の良いものは善、反対を悪として分けているのです。都合の悪いことはやりたくない。自分の権利は最大限に主張するけれども、自分に課せられる義務は最小限に食い止めたい。楽な楽な方へ、得な得な方へ進んでいくのが私の心です。当たり前と思う心には何の感動も感激もありませんが、その物のありがたさを知ることにより初めて「おかげさま」と受け止めていけるのではないでしょうか。