019 私の母へ

中角 徹

私には九十一才の父と、八十五才の母が今も健在です。父は週二回デイサービスへ行っていますが、母は四年前から特別養護老人ホームへ入所しています。その母について少しお話をさせていただきます。

二十才で父と結婚し、二十一才で私を産み、また妹二人を得て、三人の子どもに恵まれ、農家の嫁として朝早くから、日が暮れるまで毎日野良仕事をしていました。そんな両親は若い頃からお寺へはよく足をはこんでいました。特に母は聞法会にはかかさず、参加していた様で、お寺から帰ってくると今日のお話はとても分かりやすいお話だったと、よく私に内容を話してくれました。私がお寺に、いろいろと係わっているのも母の影響が大きかったのだと思います。

そんな母がある日突然、父に大声をあげ、暴力をふるう様になったのです。父に聞いても原因が分からないと言うだけで、その言動は徐々にひどくなり、家族には手がおえなくなりました。認知症の始まりでした。

その後、デイサービスを受けながら様子を見ていましたが、その間にも二回の軽い

脳梗塞を起こし、今の施設に厄介になっているのです。母からは笑顔が消え、車イスの上でいつも無表情です。面会に行く回数もだんだんと少なくなっている私ですが、若い頃、聞法会から帰って楽しそうに私にいろいろな話を聞かせてくれた母。それに引き換え自分は聞法会で聞いた話を、母に話したことは一度もありませんでした。もっといろんな話を聞いて、母に話してやりたかったと、悔やむ毎日です。

子どもの様になってしまった母ですが、きっとアミダ仏の世界で色々な話を思い出していることでしょう。そして私に無言でそのことを伝えてくれているのだと思います。今の時代、いつ自分がそして皆さんが認知症になってしまうかそれは分かりませんが、母の様に法話を聞きに寺に足を運び、少しでもアミダ仏の世界に近づける様、人を誘っていっしょに寺へ行きましょう。

(南勢二組・道專寺門徒 二〇一七年十月上旬)