019 仏道としての農業

金津 正嗣

自然農法を提唱し、その第一人者の福岡正信さんの著書に『わら一本の革命』がありますが、その本に大感動を受け、出会ったのが三十数年前になります。その後、定年前でしたが、NHKの「プロフェッショナル」という番組で、青森のリンゴ農家の木村秋則さんの農法を知り、定年後、無肥料・無農薬の米作りを始めるきっかけとなりました。

木村さんも、福岡さんの自然農法に出会われた一人でした。今の慣行農法について「人間欲望の拡大追随で、自然から離反し、科学の発達に伴ない、目標も、手段も多様化し、無限に苦労が増大する」と、福岡さんは言い切られています。まさに、今ある農業の現状だと思います。特に、米作りにおいては、イネの性質、特質によらず、仕事の都合で早く収穫し、夏の最中に稲刈り、果たして自然なのでしょうか。

この大自然は、真理そのものであり、万物が生かされている。人知も、人為も加えない自然そのままの中で没入し、自然とともに、生き生きと生きる農法で、自然が主体で自然が物を作り、人間はこれに奉仕をする立場を取るだけである。人は自然を知り尽くせない、自然に手を加えない、何もやらないと一切人力無用を述べられています。

この事実を知り、私も、耕さない、雑草を活かす、持込まないを基本に、農業を始めて八年が過ぎました。

「自然法爾(じねんほうに)」この言葉は、親鸞聖人が重視された言葉ですが、自己の計らいを捨て、阿弥陀如来の誓いに生きる。大宇宙の真理の中で生かされていることだと思います。

真宗門徒として、教えと農業をどう考えるのかが、生活者としての私の毎日、自然に対して、適切に関わることであります。自然の摂理に従い、そのすべての恵みをいただくことの農法を楽しむことと思っています。

毎年、加賀の大聖寺教区の「農家の奉仕団」に参加をさせていただいていますが、ご講師、加賀の農家の皆さんとの毎年の出会いを楽しみにしています。

この奉仕団は、本山同朋会館で、二泊三日の研修ですが、農業を通して、その道を歩まれた方をご講師として、膝を交えての座談会を行なっています。ご講師のすばらしい体験を知り、今まで知り得なかった事実にも出会いました。こうして農業をやったことで、この様な出会いを、ご縁をいただいている事に感謝するしかありません。

私にとって、生活の中で「本当のことを知らないと、本当でないことを本当にしてしまう」安田理深(りじん)先生の言葉が、いつも浮かんできます。

自然環境の自然観察から、いろんな発見、また気づくことが、自然からの問いかけ(意志)を自覚できると思っています。仏道としての農業をこれからも歩んで行きたいと思っています。

(三重組・三嶽寺門徒 二〇一六年十月上旬)