018 アメリカ大統領ヒロシマ訪問

門野隆芳

一九四五年(昭和二〇年)八月、人類史上初めて広島と長崎の二都市に原子爆弾が投下されてから七十年。長い年月を経た今年(二〇一六年)五月二十七日、伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)で三重県を訪れていたアメリカのオバマ大統領が、サミット終了後、原爆投下国の現職大統領として初めて被爆地ヒロシマを訪問しました。

大統領を温かく迎え入れた広島市民の姿にも心を打たれましたが、その時の大統領の演説で、

「未来において広島と長崎は、核戦争の夜明けではなく、私たちの道義的な目覚めの始まりの地として知られることでしょう」

という言葉を発信しました。

このオバマ大統領のヒロシマ訪問と演説は、ヒロシマのあるべき姿を改めて世界中に示し、核爆弾の悲惨さを伝えるところから、少しずつでも核兵器の縮小・廃絶へとつながる目覚めの一歩となり、これから人類の歩む道を、誤りなきものとするための歴史的な意義のある出来事であったと思います。

また、被爆者代表としてオバマ大統領と対面した坪井さんは、

「被爆者の思いをぶつけるだけでは伝わらない。分かってもらえなければ意味がない。だからそれを乗り超えてこそ未来が見えてくる」

と語られました。

この思いに至るまでには、今日までどれほどの苦しみ、悲しみを背負い続けてきたのかわかりません。そして未来に向けて核兵器を廃絶する国際署名運動をし、世界を動かそうと坪井さんは次の一歩を踏み出しています。

顧みれば、私たちの宗門(真宗大谷派)は、一九九五年(平成七年)に、「不戦の決議」を行い、二〇年を経た昨年(二〇一五年)には、世界の真の平和を希求した「非戦の誓い」を表明しています。

釈尊の説く「兵戈無用(ひょうがむよう)」(『真宗聖典』七十八頁)の教えのとおり、本来は、兵隊や武器は無用であり、世界の誰もが戦争のない平和な世界を願っているにもかかわらず、私たち人類は、今でも核を持ち続け、核兵器の抑止力に依存しています。

現代は、戦争に向かおうとする社会状況に似ていると言われます。こういう時であるからこそ、私たちには原爆による世界唯一の被爆国の務めとして、核兵器を必要としない、二度と戦争をしない平和未来の実現に向けて、一人ひとりが小さな一歩を踏み出し、社会で起きる様々な事象を凝視し、関わり続けることと、ヒロシマを深く心に刻みつけ、世界に訴え続けていく大きな使命があるのだと思います。

(中勢一組・萬福寺住職 二〇一六年九月下旬)