032諷誦持説

片岡 健

 親鸞聖人はみんなが声を揃えてお勤めできる『正信偈』・『ご和讃』を残してくださいました。私たちは毎朝・毎晩のお勤め、仏事でのお勤め等を通して、そこから量り知れない教えをいただいています。『正信偈』などは本を見なくても読める方が多いと思います。

 『仏説無量壽経』というお経には、「諷誦持説(ふうじゅじせつ)」(『真宗聖典』二〇頁)という法蔵菩薩の願いが出てきます。仏さまの教えを声に出して何度も読み、暗記して、歌うがごとく軽やかに口から出るようにしなさい。私たちにはそういう願いもかけられているのです。

 数年前、門徒さんではないのですが、近所に若いご夫婦が引っ越してこられました。ほどなくご主人のお母さんが亡くなられて、お葬式と中陰のお参りをさせていただきました。六七日のお勤めが終わった後で、奥さんから質問をうけました。「ごえんさん。『帰命せよ』って何ですか」と。「どうして、そんなことを聞くの」というと、「毎日、お勤めをしていたら、気になるようになりました」と。『ご和讃』には「帰命せよ」がいっぱい出てきますからね。私は答えることができずに、「これから一緒に考えていきましょう」と誤魔化して逃げ帰りました。
 そうしたら、これ以後、このご夫婦は寺へお参りになるようになり、聞法されています。この奥さんは、できれば親鸞聖人に直接お尋ねしたかったのでしょう。知ったかぶりをした私などが答えなかったのが大正解だったのですね。

 声に出して諷誦、つまり暗唱できるほど読むと、この奥さんのように、時間と空間を超えて親鸞聖人に触れていけるのではないかと思います。報恩講や御遠忌に向けて、じっくりと地に足を着けて、暗記してしまうくらい教えを声に出して読む。それを通して親鸞聖人に直接お尋ねしていけるようになるといいですね。

(三重組・長傳寺住職 二〇一三年一一月中旬)