021思い込み

伊東幸典

特伝で上山した時のことです。奉仕作業で御影堂(ごえいどう)の浜縁を拭いていたら、3歳ぐらいの白いワンピースを着た女の子が目の前に現れて、楽しそうに走りだしました。私は邪魔だなと思いつつ、一息つきたいところでもあったので、「こんにちは」と声をかけました。でも、相手をしてくれる気がないのか聞こえなかったのか、走るのを止めず行ったり来たりの繰り返し。仕方がないので身体の向きを変えて作業を続けていました。きっと大人げない表情をしていたことでしょう。タイムスリップできるなら、その時の自分の顔を見てみたいものです。

しばらくして、女の子の両親が来たようで、会話が聞こえてきました。結構大きな声だったのですが、何を言っているのか分かりませんでした。振り返って口元を見た瞬間、その場の状況をつかみました。会話は中国語のようでした。日本の子どもだと思い込み、そっぽを向かれたと思っていた自分が恥ずかしくなりました。

この頃、ケアレスミスで無駄な時間を費やしたり、勘違いして謝ったりする回数が増えて困ると聞くと、とても親近感が湧くようになりました。中高年世代の友達が集まった際には、必ずこの話題で盛り上がります。自分だけじゃないことが確かめられて安心できるのです。

「おたがいになあ 不完全 欠点だらけの にんげんですがね」

これは相田みつをさんの言葉です。いろいろな不具合が生じ始めて、ようやく他人の痛みや悩みに共感できるようになってきたということでしょうか。