016心地よい歌

五瀬勝明

先日、お参りを終えて寺に戻り、境内の中に入った途端、小さな声が聞こえました。それは「チューリップの歌」でした。

「咲いた 咲いた チューリップの花が 並んだ 並んだ 赤 白 黄色 どの花見ても 綺麗だな」と、心地よい歌声でした。よく見ると2歳の長女でした。最近、ようやく全部の歌詞を覚え、毎日毎日、鼻歌のように歌っています。花を見、肩を右左しながら歌う姿はとても懐かしく心地よく、自分自身も一緒に口ずさみました。その日は一日中2人で歌い続けました。

最近は、忙しさの中で、心地よさなどということを感じる機会などありませんでした。でも、この日は、耳から心地よさを感じました。目の前に咲いている花さえも気づかずに日々生活している中で、花を見て感動し、歌を聞いて感動する、ありのままの事実を受け入れていくことの大事さを思い出させてもらいました。

『仏説阿弥陀経』の中に「青色青光(しょうしきしょうこう)黄色黄光(おうしきおうこう)赤色赤光(しゃくしきしゃっこう)白色白光(びゃくしきびゃっこう)」と出てきます。一つ一つの花が光を放ち、青い色は青く、黄色い色は黄色く、赤い色は赤く、白い色は白く、それぞれの色に光を放ち、光り輝いている、と。これは、自分たち自身が既にいろいろな色を持っていて、その輝きは私たちの本来生まれた姿でもあり、輝きの中に生きる喜びの姿がある、と言ってもいいのではないでしょうか。

しかし、私たちは、学歴だとか地位とかを求め、それだけが輝きであると、生きるための条件であると、勘違いして生活しています。だから、努力して他の人よりも優れたものを手に入れようとするのです。身につけた価値観だけではなく、自分の思いまでもが常識であると思い込んでいるのです。現代社会の中で他人との比較に終始していたのでは、結局、光り輝くことができないでしょう。

長女の歌から、比較ではなく、互いに輝きを認め合えることのできる世界があることを思い出させてもらいました。