016花を生ける

本田圭子

寺に生まれ、縁あって寺に嫁いで40年近く経とうとしています。

大学生だった私は、今は亡き義母の「こちらで寺のことだけではなくすべてのことを教えます」の一言で卒業と同時に結婚しました。箱入り娘と言うと聞こえはいいのですが、花嫁修業どころか、寺のこともほとんど知らずに嫁いできました。家族にとっては迷惑で、しばらくはたいへんな辛抱だったことでしょう。当時は、私も早く家族の一員になろうと、いろいろなことを覚えるのに一生懸命でした。しかし、本堂のお華はいつも義母に任せきりでした。時々義母が一週間ほど留守にする時があり、絶対お華を枯らしてはいけないと言われていたので、夏場は特に悪戦苦闘の連続でした。これではいけないと思い、生け花教室に通ったり、他のお寺の仏華を見せてもらう等して勉強しました。必要に迫られて始めたお花ですが、何事にも基本的な決まりごとがあり、四季折々の花の一瞬の生命を大切に、花の反応を確かめながら造り上げていくのが生け花だと知りました。

年月はかかりましたが資格も取り、今は花と向き合っているのがこの上なく楽しく、心が和み、落ち着くのです。忙しい日常生活の中で、唯一花を生けることを通して仏様と向き合える時間だからでしょうか。自分中心の心が捨てきれない私、身勝手な私に気づかされる大切な時間です。若い頃は義母の言葉が理解できませんでしたが、同じ立場になってやっと頷けるようになりました。

今日まで御仏のお導きのままに嫁ぎ、周りの人々に支えられて生きてきました。これからも素直に自分を見つめ直す一時を大切にしたいと思っています。