014バラバラはばらばら 

福岡裕

父が2年前に肺がんを患い2度の手術を行い、現在では入退院を繰り返しています。
15年ほど前、脳血栓で入院した時には、症状も軽く1ヶ月ほどで退院できて仕事に復帰できました。そんな経験もありましたから、今回の肺がんも転移していなければ仕事にすぐ復帰できると思っていたのかもしれません。ところが、1回目の手術の後はすぐに復帰できたのですが、半年後に再手術してからは、症状は良くなるどころか徐々に体力は落ちていくばかりです。現在では酸素吸入をしなければならないほど肺の機能が落ちています。

それにもかかわらず、仕事のことが気になり病院を抜け出して酸素ボンベを抱えて現場まで行ったのです。請け負っている周りの人たちから「迷惑になるからもう来ないでくれ」とクレームがつきようやく現場に行くことを止めたのでした。現場に行くのは止めたのですが、病院から電話をしたり、仕事ができない愚痴を母にぶつけたりして困らせました。揚げ句の果てには、仕事を任せていた弟ともやり方のことで喧嘩をする始末。あまりにも口やかましく言う父に対して、弟も「言う通りにはできないから仕事を辞める」と言って辞めてしまいました。仕事を任せたと言っておりながら、いちいち口出しすることに我慢ができなかったようでした。

こういうことは、任せたと言っておりながら、任せきれないどこかの家の話としてよく聞かされたことでありましたが、実際に出会ってみると親子といえども人間不信に陥り、家の中がバラバラになってしまうことをまざまざと見せつけられました。

酸素ボンベを抱えながら復帰しようとする父は、仕事で忙しく働いていることが自分の生きがいでもあり、人生における一番価値のあることと信じていたのでしょう。人の為、自分の為、家庭の為、社会の為と信じて事を起こしたとしても、所詮、人間のすることは大なり小なり他の人に迷惑をかけて生きていると思って丁度いいくらいなのかもしれません。

家族の為忙しい、忙しいと言っているその姿は、社会的に又道徳的には問題ないことかもしれませんが、家族として人間として本当に迷惑をかけているということを自覚しなければなりません。親子といえども人間同士、人間としての欲深さ・罪深さを意識的に自覚させられるような教えを共通にもっておかないと、バラバラな集合体としての家族関係しかもてないように思えます。

「バラバラで一緒なる」ものはちょっとした行き違いで、たちまちに修復不可能なほどバラバラの存在でしかないことを如実に教えられた父の肺がん闘病です。