029皆月

松村 至

東員町に住んでおります、松村と申します。

数年前ですが、テレビの深夜番組で『皆月』という映画を見ました。妻に全財産を持って逃げられてしまった、冴えない中年サラリーマンを奥田瑛二さんが演じておられ、その奥さんが、家を出て行くときに残した手紙の初めが「みんな月でした、もう限界です」というテーマとなる言葉でした。その後、世の中であまり陽の当たらない部分を生きる、数人の人による、いわゆるエロ・グロ・ナンセンスを盛り込んで展開する物語ですが、非常にハッキリしたメッセージがありまして、それが、映画の最後のほうで奥田さんが扮する主人公によって語られます。それは「そうだ、人は皆、自分で輝くことができない、月なんだ」というものです。その言葉が明るさと確かさをもって語られました。「所詮自分では輝けないんだ」というのとは違って、「俺たちは皆月でしかない、しかし、月であることは約束されている。自ら輝くことのできない者として生きることは、何によっても邪魔されていないんだ」という響きがありました。「輝くことのできない者で結構」というのが、私の受け止めた映画全体からのイメージでした。

そういう私は、太陽も知らず、自分が月であることも知らず、いつか自分が輝いて、そして皆を照らしてあげたいなどとチョッと思いながら、うわ言のように「何とか輝きたい」「何で輝けんのだろうか?」とつぶやきつつ、お湯で薄めて、梅干を入れて潰した焼酎を、二杯・三杯・四杯と今日もまた飲んだくれていることであります。