014お隣の佛様

伊藤一郎

私のこの地方では稀に見る何年ぶりかの大雪の2月13日の深夜でした。

お隣のご主人が暫くの患いの後、眠る様に静かにその人生を終わっていかれました。享年88歳の往生を遂げられた事でした。

ご逝去の2日前、私に会いたいと言われたとの事でご家族の方から知らせを頂き急いでお邪魔させて頂きました。しかし、本人のほとんど言葉にならない弱いお声で「この家から送って欲しい」と苦しい息のなか、それでも最後の気力を振り絞っておっしゃいました。

自宅でする葬儀の願いを、今生の最後の願いとして残された事でした。

私は即座に「承知しました」と手をしっかり握り締めお約束を致しました。

彼は長年仏花の担当をして下さり、報恩講、永代経はもちろんのこと、その他の仏事、催事には、手間隙かけた立派な仏花を献花されておられました。加えて若いご門徒の方々には、仏花の指導はもちろん仏事の流れ、謂われ等、この地方に法灯を立派に伝え続けてくれました。

私は、彼の今までのこのお年まで仏事について長い間どんなことも私たちに教え導いて下さった事に対して頭の下がる思いで一杯でした。最後の最後まで生ききっておられたその姿は、生きるという事、死ぬという事をその存在まるごとで教えてくれている様に思うのです。

思えば約35年前、厳しい時代の中、大変な苦労を重ねられて自宅の新築を志し、立派に完成されました。彼からは、自らの88年に渡り愛した自宅、愛情いっぱいの家族、思い出一杯のこの楽しい我が家から送り出してくれる様に家族にも言い伝えてあると言われました。何という家族愛でしょうか。

彼がお浄土へ帰られてから丸4日、雪の寒い日がつづきました。積雪も、多いところでは相当な高さとなり、又、別の行事も重なり5日後の18日に葬儀が行われました。気温も著しく下がり、ご遺体の保全は保たれていました。ご家族は、「爺ちゃんが最後までこの家に居てくれた」と、大変喜んでおられました。生前より彼が一番望んでおられた自宅での葬儀が厳粛に執行されたことでした。

近年、彼のご子息も寺役を引き受けてくださり「寺世話」として日々仏事に尽力されています。

仏様の導きを頂き、お父様の大切にされた法灯をこの家族にしっかり繋いで下さる事と確信しています。

南無阿弥陀仏