028意業

芳岡恵基

今から7年ほど前にベストセラーになった本の中に、養老孟司さんの著書『バカの壁』があります。当時私は、本の題に「バカ」という文字が使われていることに驚き、急いで購入して読んだことを思い出しました。

「バカの壁」という意味について著書の中で養老さんは、「自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている。ここに壁が存在します。これも一種のバカの壁です」と言われています。確かにその通りで、お参りや聞法会に参加する人はするし、気が無い人はどれだけお誘いしても参加されません。

また、養老さんは「強固な壁の中に住む。それは一見、楽なことです。しかし向こう側のこと、自分と違う立場のことは見えなくなる」とも言われています。つまり、「強固な壁」によって内にこもり外が見えなくなることで、自己(自分)中心の生き方になってしまうということではないでしょうか。

最近のニュースなどで問題になっている事件なども、これらのことが原因で起こっているのではないでしょうか。現代人の生き方そのものが、問われているように思います。

「バカの壁」ということを、宗祖の言葉に置き換えると「貪愛瞋憎之雲霧(とんないしんぞうしうんむ)」(真宗聖典204頁)になります。「貪愛」・「瞋憎」の二つの心こそ、真実の世界と私とを遮る壁となるのでしょう。自分で作った壁の中に居れば居るほど(内に閉じこもれば閉じこもるほど)自分は生きている、「俺は誰の世話にもなっとらん」といった錯覚に陥るのではないでしょうか。

壁によって真実の世界に会えない私たちは、正しく無明そのものです。それにより、思いで描いた自分を本当の自分であると勘違いして生活しているのではないでしょうか。思いに立って生活していた私に、改めてご縁に立つことの大切さを学ばせていただいた気持ちです。