012言うことをきかない犬は縁、因は私

海野真人

飼い主も分らず、さまよっているところを保護された犬を飼っています。長い間さまよっていたようで、あばら骨が透けて見えるほど痩せこけ、また病気で皮膚がただれてかわいそうな状態でした。

その犬を妻と娘たちが、うちで飼いたいと言い出しました。私は動物を飼ったことがありませんし、どちらかといえば犬は苦手な方だったので反対しましたが、結局、押し切られる形で飼うことになりました。

ところが、この犬は私が餌をやったり散歩に連れて行ったりしているのに、私の言うことをききません。先日は、私の手にかみつき流血までしてしまい、この犬のせいでひどい目にあったと腹が立ちました。

ある学習会の座談会で、偶然その話題になり、私は「どうしたらうまくいきますか」と尋ねました。すると参加していたご門徒さんから、「犬は犬好きを知るというから、その犬は自分が嫌われていることが分っているのではないですか」と教えていただきました。

その時、先生から「あなたはどうしてその犬を好きになれないのでしょうか」と質問をされたのです。その瞬間、事態が一変しました。今まで私が問題としていたのは、言うことを聞かない犬の方であって、どうしたら言うことをきくようになるのかということだったのです。しかし、その質問によって問題なのは犬ではなく、実は私の方だったということに気づかされました。

言われてよくよく考えてみると、私の中に「私はお前の命の恩人だぞ、餌を食べさせてやって、散歩にまで連れて行ってやって、何の不満がある?言うこときいて当たり前だ」という思いが強くありました。また、妻や娘たちに対して「こんなたいへんな思いをしてまでお前たちの希望をきいてやったのだぞ」と恩を着せていたことにも気づかされました。

また、先生から、「その犬はあなたにとっての仏さまですね」と教えていただきました。自分の姿を見せていただく鏡のはたらきをしてくれたこの犬は確かに私にとっての仏さまなのです。でも、この犬に手を合わせることは私にはまだできません。これからの課題にしていきたいと思います。