019知らないということ 

加藤淳

私が学生だった頃、ある先生から「知って悪いことをするのと、知らないで悪いことをするのとは、どちらの方が悪いですか」と質問を投げかけられたことがあります。みなさんならどのように答えられますか。この時、私は「知って悪いことをする方が悪い」と答えた記憶があります。

この先生の答えは「両方が悪い」でした。しかし、強いて言うなら、「知らないで悪いことをする方が悪い」とのお話で、自分の考えていた答えと違っていたので、とても驚きました。それからすぐに先生からその意味を教えていただきました。知って悪いことをするのは、自分が止めようと思った時には、いつかはその行為を止める時が来るが、知らずに悪いことをするのは、誰かから教えてもらわないと止める時がないので、悪いことと知らずに、ずっとそのことをやっている方が罪が深いと教えてもらい、今も記憶に残る質問の一つになっています。

今から13年前の1996年に「らい予防法」が廃止されました。「らい予防法」は1906年から90年余りの長い年月において、ハンセン病に感染した方々を強制的に隔離するという法律でありました。ハンセン病は極めて感染力が弱い病気であったにもかかわらず、絶対隔離の政策に、国を挙げて、また大谷派の中にも国の方針に従って、「らい予防法」を推し進めてきた歴史があります。

私の近くにはハンセン病に感染した人はいませんでしたので、ハンセン病問題は全く知りませんでしたが、つい最近まで、世間には、ハンセン病はうつる恐い病気であるとの間違った認識があったようです。

何事においても知らないということは、知らず知らずのうちに人を傷つけているということでもあります。ハンセン病は感染力が弱く、人にうつらない病気です。ハンセン病のことも正しく理解し、正しく知る。ハンセン病問題だけではなく、いろんな物事を自分の思いだけで決めつけてはいないでしょうか。