028冬牡丹 千鳥よ雪のほととぎす 

佐々木徳子

桑名別院本統寺の境内にかわいい池があります。その池のほとりには、表題の句を刻んだ、俳聖松尾芭蕉の句碑が建っています。自坊のある伊賀上野は芭蕉誕生の地であり、地元の人は子どもからお年寄りまで、親しみを込めて「芭蕉さん」と呼んでいます。芭蕉さんが『野ざらし紀行』の旅の折、本統寺住職・慧浄院琢慧上人に招かれ、一宿をした際に詠んだ句です。

琢慧上人が丹精こめて咲かせた寒牡丹を見ていると、浜辺のほうから千鳥の声が聞こえてきた。あたかも、雪の中でほととぎすの声を聞くような風情だ、というのです。本来、牡丹やほととぎすは夏の季語であり、そのことがこの句をやや難解なものにしています。でも、冬鳥の鳴き声を聞いて牡丹の花を縁とし、雪中の夏鳥を思い浮かべる芭蕉さん。その感性、とても素敵だと思いませんか。

見たまま、聞いたままのことでしかなかなか物事を信用、判断できない私たち現代人の失いかけている想像力が、そこにあるのではないでしょうか。歩いて旅する芭蕉さんの「もう少しゆっくり」という囁きにも聞こえます。

同じく、境内には親鸞聖人が静かに佇んでおられます。この芭蕉さんの句をもし親鸞聖人が聞かれたら、どんなお顔をされるでしょう。興味は尽きません。