018相手の身になる 

折戸芳章

JR福知山線の脱線事故から、2ヶ月が経とうとしています。107名の尊い命の犠牲者と数百名の負傷者という大惨事となり、経営するJR西日本鉄道の利益優先、縦割り管理運営体質に世論の非難が浴びせられました。

今回のJRの事故対応の不備を見ながら、松竹新喜劇の藤山寛美さんの芝居の一場面を思い出しました。寛美さん演じる建設会社社長が、一流大学建築学科卒で一級建築士の息子の設計図と、長年その会社の建築現場で責任者として汗水を流し独学で一級建築士になった人の設計図のどちらで建築するかという場面で、長年現場で責任者をしてきた方の設計図を選択しました。悲しむ息子に父である社長は「お前はセメント一袋の重さを知っているか、柱一本の重さを知っているか、お前は現場での苦労を何ひとつ知らない、ただ知識だけで描いた設計図だ。それに比べてセメントや柱の重さを熟知している者が、運ぶ現場の者の身になって描いた設計図とでは、現場で働く者はどちらが工事をしやすく、意欲的に働けるかは明らかだ」と説明しました。蓮如上人は「われは、人の機をかがみ、人にしたがいて、仏法を御聞かせ候う」(真宗聖典876頁)と仰せのように、相手の身になってその人の境遇や性質・個性によってその人に合った教えの説き方を心がけておられました。

JR西日本の管理職が、毎日利用いただく乗客の皆さん、現場で働いている運転士、車掌の身になって会社を運営していれば、この大惨事は防げたのかもしれない。