015千の風に想う

池井隆秀

私のお墓の前で 泣かないでください そこに私はいません 眠ってなんかいません 千の風に 千の風になって あの大きな空を 吹きわたっています…

これは、新井満氏訳の英語詩『千の風になって』の冒頭の一節です。数年前ラジオの深夜放送から流れてきたこの詩の響きにドキッとしました。早速書店でその本を買い求め、CDも手に入れました。「大切な人を亡くした時に悲しみを癒(いや)してくれるのはこの詩かもしれない」と書評があります。新井氏の友人の奥さんが若くしてガンで亡くなられた。その追悼文集で氏はこの詩に出会われます。最愛の人を亡くして悲しみのどん底にいる時、亡き人からのメッセージがこの詩であるとするならば、これほど残された者に命を吹きかけてくれるものはないのではと思いました。改めて亡き人との出会いが始まっていることを告げてくれているようです。

秋には光になって 冬はダイヤのように きらめく雪になる 朝は鳥になって あなたを目覚めさせる 夜は星になって あなたを見守る 私のお墓の前で 泣かないでください そこに私はいません 死んでなんかいません 千の風になって 千の風になって あの大きな空を 吹きわたっています…と続きます。

さて、私たちも送る側から、やがて送られる側に回らなければなりません。そんな時、枕元に『千の風になって』のようなメッセージを置いておいたらいかがでしょうか。しかし、ふと私の心をよぎります。はたして、私のお墓の前で泣いてくれる人がいるだろうかと。私たちの日常生活が問われています。前川五郎氏の言葉を紹介します。

うらが死んだ言うて 誰が泣くものか 山の鳥も泣きはせぬ うらが死んだら みなよろこぶだろう 息の出るうち みな泣かせたで すみません すみません ありがとうございました なむあみだぶつ

メッセージをやめて高額の預金通帳にしますか。