004心に残った事件 

白木冨美子

病気で入院している患者さんの中には、自分では何もすることができなくとも、医療関係者の方々、家族の献身的な看護によって、与えられた命を懸命に生きてみえる人がたくさんおられます。その一方では、痛々しい事故・事件・自然災害により、一瞬にして多くの命が奪われていきます。

特に昨年起こりました中津川一家殺傷事件は、加害者の年齢が私と近いこともあって、心に深く残っています。この事件は、自分を生み育ててくれた母親を、日頃から自分へ嫌がらせをしたり、他人を巻き込んで騒ぎを起こしたりするため、「一緒には生活できない」という理由で殺害しました。その上、かけがえのない子どもと可愛い孫までも、事件の後、家族ということでつらい思いをするからと殺害し、自らも死のうとしたが一命をとりとめたというものです。それは奥さんの旅行中の出来事ということで、最初聞いた時不思議に感じましたが、理由は嫁と姑の関係に問題があり、奥さんに対して不甲斐のない自分と母親を殺すことでけじめをつけようと思ったとのことです。

普段私たちの家庭でも人間関係のこじれは大なり小なりあると思うのですが、本人にとっては私たちには計り知れないたいへんな葛藤があったのでしょう。しかし、一度母親と離れて生活するとか、家族でよく話し合うとか、他に方法がなかったのかと思うと残念です。

事件後、本人を知る人たちは一様に「まさかあの人が」「優しそうで常識のある良き人だった」とインタビューで答えておりました。私たちはもし同じような状況におかれた時、冷静に判断して行動することができるでしょうか。

蓮如上人のお言葉に「人のわろき事は、能(よ)く能(よ)くみゆるなり。わがみのわろき事は、おぼえざるものなり」(真宗聖典890頁)とありますが、そこには賜った命を自分で絶ったり、ましてや他人の人生や命を自分の思いで変えようとする人間の身勝手さが問題とされているように思います。